アジアの風だより 第96話 |
菜食週間 キンチェー
10月です。今年もキンチェーの季節となりました。今年のキンチェーは5日から13日まで、9日間に渡って行われます。
キンチェーとはタイ語で「菜食する」という意味です。もともとは中国の習慣で、年に一度、肉や酒を断ち切って過ごす儀式を言います。一種の砂おろしと呼ぶべきでしょうか。日本でも正月明けは七草がゆを食べて体の毒を抜きます。それと同じで、現代的に言えば高脂肪・高タンパク食を避け中性脂肪とコレステロールの値を下げる……と、それもあるかもしれませんが、たぶん本来は好きなものを断ち切ることによって心と体を改善させる、最近日本でも流行している断捨離の元祖的行事でしょう。イスラム教徒は年に一度ラマダーンと呼ばれる軽度の断食業を行いますが、こういう行為による身体の調整は人間に必要とされているのかもしれません。
しかし、この期間中のキンチェーが健康的かと言うと、どうでしょうか。屋台や食堂に黄色い三角の旗が立てられていたらチェー料理(菜食)が販売されているので、ちょっとのぞいてみましょう。中心になっているのは黄色く太い焼きそば風の麺。ほかには油で揚げた豆腐や団子のようなものが並んでいるはずですが、どれもあまりおいしそうではありません。それどころが油がギトギトで、かえって健康に悪そうです。体のためを思うならもっとシンプルな料理のほうがいいと思うのですが、これでなければキンチェーにならないようで、みんな競って食べています。
終了日が近づくころには体から脂気が抜けて、ついでに力も抜けて、だれもがどことなくぐったり。それでも年に一度のありがたい苦行です。よろしければみなさんもお試しください。
●国名: タイ
中国の習慣だが、タイ人の間でも広く行われる。バンコクではチャイナタウンでにぎやかなイベントとともに行われる。
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