アジアの風だより 第226話 |
ガパオとはなにか?
タイの料理は日本でもかなり一般的になってきました。トムヤムクンなどはカップ麺にもなっています。最近のブームは「ガパオ」でしょうか。本来これは食材の名前ですが、料理名そのものでもあり、タイの食堂でも「ガパオ」で通じます。
「ガパオ」と名の付く料理にはバジルの一種であるガパオ(ホーリーバジル)が使われています。似たような香草にホーラパーがありますが、それとは違います。同じ「スイートバジル」と英訳されてはいても、日本のスイートバジルとは種類が違っています。しかしながら日本で「ガパオ」と呼ばれている料理の中にはホーリーバジルではなく日本のスイートバジルを使っているものもあり、当然ながら味も風味も違っていて、本物とは呼べません。
ガパオ料理の具はなんでもかまいません。豚肉、鶏肉、牛肉と肉ならなんでもいいようです。その肉はスライスでもミンチにしてもかまいません。揚げた豚肉(ムー・クロープ)もガパオの味が引き立ちます。海鮮ものではイカや海老が合うようで、店によってはシーフード・ガパオなども用意されています。これらをガパオとトウガラシで合わせ炒め、ナムプラー(魚醤)で味を付けます。最後に目玉焼き(カイダーオ)を乗せると味はさらによくなって、辛さも若干ながら押さえることができます。
このように「ガパオ」は肉とガパオと唐辛子の3つの食材が基本になっています。あとは店によって違いますが、あまりあれこれ入れないのがタイの「ガパオ」で、日本人好みの「具だくさん」とか「野菜たっぷり」という感覚はありません。
「ガパオ」はまた唐辛子をふんだんに使う料理です。タイ人が「おいしいガパオ」と呼ぶ場合はだいたいが激辛で、日本人の口と舌には受け付け難かったりします。しかしこの唐辛子が「ガパオ」の決め手で、入れないと料理になりません。日本人には「うまい」と感じる唐辛子をまったく入れない「ガパオ」などは、タイ人にすれば「ガパオ」と呼びたくない別のなにかであるようです。
日本人は料理に創意工夫を凝らし、自分たちの舌に合わせるのが得意ですが、限度を超えすぎて原点を見失うことがしばしばあります。日本の「ガパオ」もそうなっていて、一部ではガパオを使わないガパオ料理まであるのだとか。これはシャリのない、ただネタだけを並べた料理を「スシ」と呼ぶ外国人と同じ感覚かもしれませんが、「ガパオ」という料理にはそこまでの自由度はありません。少しくらいの辛さには耐える心づもりで食するのがタイのガパオだと思っておきましょう。
●国名:タイ
「ガパオ」はタイの食堂には必ずあると言い切っていいくらい一般的な料理。味や辛さは店によって違うので、機会があるなら徹底的に食べ比べてみるのがいいだろう。
タイからはじめるバックパッカー入門 藤井伸二 著